安全衛生 / ネットリテラシー 講義資料

【1】ネットリテラシーとは?=「使いこなす能力」


 リテラシー(literacy)はもともと「読み書きの能力(識字能力)」を表す英単語です。

日本では、そこから「使いこなす能力」へと意味が拡張しました。


 インターネットを使いこなす能力は「ネットリテラシー」、コンピュータ自体を使う能力も含めると「コンピュータリテラシー」というわけです。


使いこなすというのは、技術的な意味だけではありません。


 インターネットには便利な情報がある反面、危険や嘘も多く含まれています。

また、全世界に公開される特性上、一度発信してしまった情報は永遠に残り続けると考えていいでしょう。そのような特徴を理解し、トラブルを回避しながら正しく利用する能力が「ネットリテラシー」なのです。

 

 続いて、「情報を受け取るとき」「情報を書き込むとき」に分けて、身につけておきたい知識を簡単に説明します。


●情報を受け取るときのネットリテラシー
 まずは、情報を受け取るときのリテラシーを確認しましょう。ここではデマとコンピュータウィルスについてまとめます。


1)その情報、本当に信頼できますか?


 情報の検索についてです。
インターネットは誰でも気軽に情報発信ができるため、思い込みや誤解がそのまま公開されている場合もあります。発信者に悪意のある場合、わざわざ嘘の情報を拡散させることも。情報を取捨選択し、信頼の置ける情報を選び取ることが必要なのです。


 たとえば、ある人が10時オープンのお店について、誰かがうろ覚えのまま「9時オープンだったかな?」と書いたとします。
 それを見た人が、友達に「9時オープンだって!」と伝えてしまい、友達は9時にお
店に行きました。しかし、本当は10時オープンなのですから、お店はまだ開いていません。ガッカリした友達は、「せっかく行ったのにお店が開いてなかった。店長はルーズなのかも」と悪い評価を書き込みました……。

 

 これはたとえ話ですが、同じようなトラブルは毎日のように起こっています。

憶測が憶測を呼び、「あそこの店長はルーズだ」というような、根も葉もない噂が広がってしまうのです。

 

 もしこれが健康に関する情報だったら、もっと取り返しのつかない事態につながり
ます。誰かがうろ覚えで書いた情報を鵜呑みにするのではなく、信頼できる情報元
から情報を入手するようにしましょう。


2)コンピュータウィルスから情報を守れ!


 2017年に、JALが「振込先が香港の銀行に変更された」という偽のメールにだまされ、数億円を騙し取られた事件がありました。本物の請求書にそっくりなものを作成し、取引先が本物のメールを送った直後に「訂正版」として偽の請求書を送るという、巧妙な手口でした。

 

 偽の請求書は、本物の請求書と全く同じ形式で作られていました。こんなことができるのは、JALの取引先のパソコンがコンピュータウィルスに感染し、連絡先やメールなどが漏洩していた結果ではないかと言われています。
 「最大級の振り込め詐欺」とも呼ばれるこの事件では、ネットリテラシーを身につけることの重要性が改めて問われました。

 

 コンピュータウィルスは、一見便利そうなフリーソフトに仕込まれていたり、メールの添付ファイルを開いただけで感染したりします。ソフトウェアは

・信頼できるところからダウンロード・購入する。

・少しでも不審だと感じたらメールを開かず、送信元に確認する

などの自衛が必要です。


●情報を書き込むときのネットリテラシー

 次に「情報を書き込むときのリテラシー」を確認しましょう。ここでは個人情報、炎上リスク、誹謗中傷についてまとめます。


1)個人情報を安易にネットに書き込まない。


「自分の名前や住所、写真などをネットにアップロードしない」は、大体の人がすでに知っていることかもしれません。でも、それだけで対策は万全なのでしょうか?


答えは「NO」です。


 自分の名前を堂々とネットに書いていなくても、たった1枚の写真から住所・名前・生活リズムを特定できてしまうこともあります。
 デジカメの画像データにはExif(イグジフ)というデータが記録されており、いつ・どのようなカメラで撮影したのかが分かるようになっています。GPS搭載のカメラだと、写真の撮影地点がExifに記録されている場合もあるのです。


 これを知らないまま、自宅から「今日の満月はキレイだな♪」なんて写真をアップロードしてしまったら、悪意のある人からは住所が丸見えになります。
 写真だけでなく、最寄駅や行きつけの店も生活エリアの特定につながりますし、特徴的な方言・用語から地域が特定されてしまうことも。用心するに越したことはありません。


2)投稿していい内容・悪い内容を見極める
 毎日のニュースを見ていて、「炎上」という言葉を聞いたことがある人も多いのではないでしょうか。
「ネット上の投稿がきっかけで加熱するバッシング」をいったものですが、中高生が「炎上」の火元になっていることも多くあります。面白がって個人情報を特定したり、写真を拡散したりする人も少なくなく、将来にわたって自分の情報が悪意をって晒され続ける恐ろしい事態を招きます(デジタルタトゥー)


 人は、面と向かって意見を言うときには、それなりに言葉を選びます。誤解があれば、訂正しながらコミュニケーションを取ることができます。
 けれどもSNSでは、つい言葉が足りなかったり、強い言葉で罵ってしまったりしがちです。ニュースになるのは「悪ふざけ」と称した犯罪行為がきっかけのことが多いですが、言葉の足りない、軽率な意見発信が「炎上」につながることもあります。いったん炎上してしまったら、「身内だけのつもりだったのに……」は通用しないのです。


3)犯罪行為をしない

 ネットで発信しないのはもちろんのこと、意見を発信する場合であっても、対面と同じくらいの慎重さを持ちましょう。画面の向こうには人間がいます。思い込みで動いたり、感情的に罵ったりするのはもってのほかです。


●「匿名だから安全」ではない
 SNS上での誹謗中傷が社会問題化しています。有名人が被害に遭いやすいイメージですが、中には芸能活動をしていない一般人が誹謗中傷のターゲットになることもあります。


 SNSでは自分の意見を簡単に発信できます。

しかしその便利さは、友達や家族に話すような感覚で失礼な内容を書き込んだり、過激なコメントをしてしまったりする(誹謗中傷してしまう)リスクと表裏一体です。


ほとんどの人はSNSを匿名で利用していますが、「匿名ならバレないだろう」は間違いです。誹謗中傷を書き込まれた側は「プロバイダ責任制限法」にもとづき、SNS運営者(プロバイダ)に対して発信者の情報の開示を請求できる(=誰が書き込んだのか、情報提供を求める)ことができるからです。

【2】著作権と肖像権

 

 動画制作を始めたいけど、著作権や肖像権の違いがわからない……。」動画制作や配信の初心者の方は特に、そんな悩みをお持ちではないでしょうか?


著作権は、制作物に対してその使用や複製などに関する権利であり、

肖像権は個人の画像や映像が無断で使用されないよう保護する権利です。


どちらも無視すると法的トラブルに発展するリスクがあります。


動画を制作・公開する際には、事前に著作権と肖像権を正しく理解し、適切な手続きを行うことが重要です。


●動画制作の際に気を付けるべき著作権とは?
 動画制作に取り組む際、著作権の問題は避けて通れません。
著作権とは、動画や音楽など、クリエイティブな作品を保護するための法律です。
著作権を正しく理解しないと、意図せず他人の著作物を無断使用してしまい、法的なトラブルに発展する可能性があります。
特に動画の制作では、音楽、映像素材、そして登場人物の肖像権など、さまざまな要素が関係してくるため、十分な注意が必要です。


①著作権とは
 「著作権」とは、された作品に対して、作品の制作者が持つ権利です。
著作権には、作品の複製、公開、改変、翻訳、二次利用などができる権利が含まれます。
著作権は、作品が創作された瞬間に自動的に発生し、特別な申請や登録は必要ありません。
動画制作においては、映像、音楽、台本など、すべてのクリエイティブな要素に著作権が発生します。
著作権を持つのは通常、その作品を制作した人物や会社ですが、契約により他者に譲渡することも可能です。
譲渡可能なため、制作前に権利の所在や利用範囲について明確にすることが非常に重要です。

 

②著作者人格権とは
 「著作者人格権」とは、著作物を創作した著作者が持つ、作品に対する人格的な権利です。
著作者人格権には、作品を公開するタイミングや方法を決める「公表権」、自分の名前をどのように表示するかを決定できる「氏名表示権」、そして作品を無断で改変されることを防ぐ「同一性保持権」が含まれます。
 著作者人格権は、他者に譲渡したり、相続したりできないため、必ず著作者本人に帰属します。
動画制作においても、制作物が他者によって勝手に変更されたり、著作者名が適切に表示されないなどのトラブルを避けるため、著作者人格権をしっかり理解しておくことが重要です。


③著作隣接権とは
 「著作隣接権」とは、著作物そのものを制作した著作者ではなく、その著作物の伝達や実演に重要な役割を果たした人々に認められる権利です。
 具体的には、動画の出演者やナレーションを担当した「実演家」、その映像や音声を最初に収録した「レコード製作者」、動画を配信するテレビ局やストリーミングサービスなどの「放送事業者」が対象です。
実演家、レコード製作者、放送事業者には、動画の録画・複製やインターネットでの公開に対する権利が認められています。
 著作隣接権は、動画制作に関わる多くの関係者にとって重要な権利であり、契約や使用許可の際に十分な確認が必要です。

※動画内の素材に発生する著作権とは
 動画制作において、使用する素材の著作権には特に注意が必要です。
動画内で使用するBGM、画像、映像、アニメーションキャラクター、ナレーションなど、すべての素材には著作権が存在する可能性があります。
 既存の素材を使用する場合は、その著作権者に許可を得ることが必須です。

 

 また、動画用に新たに作成されたオリジナルの素材でも、その素材には著作権が発生します。
さらに、素材サイトからダウンロードした音楽や画像を利用する場合でも、商業利用には追加のライセンスが必要となる場合があります。

 

 ロイヤリティフリーと記載されていても、利用規約をしっかり確認し、適切なライセンスを取得することが重要です。


 著作権を侵害しないように、事前の確認と許可を徹底しましょう。

●動画制作の際に気を付けるべき肖像権とは?
 動画制作において、肖像権と著作権は混同されやすいですが、それぞれ異なる権利です。

 

 肖像権は、人物の容姿が無断で使用されないよう保護する権利で、動画に登場する人の許諾が必要です。
一方、著作権は、動画そのものや素材に対して発生する権利です。


動画制作では、肖像権と著作権をしっかり理解し、事前に確認を怠らないことが重要です。


肖像権も著作権も無視すると法的トラブルにつながる可能性があるため、慎重に対応しましょう。


①肖像権とは
 肖像権とは、個人が無断で自身の容姿や姿が写真や動画で撮影されたり、公開されたりしないように保護される権利です。
 動画制作においては、出演者や偶然映り込んだ人々に対して、必ず事前に肖像権の許諾を得る必要があります。
肖像権の許諾を得ずに公開すると、肖像権の侵害に当たり、法的なトラブルにつながる可能性があります。
 特に、企業のPR動画や広告動画では、従業員や顧客が登場する場合があるため、十分な確認が必要です。
また、著作権とは異なり、肖像権には法的な規定が存在しないため、より慎重な対応が求められます。


②人格権(プライバシー権)
 肖像権の背後には、個人の人格権、特にプライバシー権が関係しています。
プライバシー権とは、個人の私生活や個人情報が他人に不当に公開されたり利用されたりしない権利です。
動画制作においては、人物の顔や姿が無断で撮影され、公開されることがないように注意が必要です。
特に、個人が特定されるような映像や画像は、その本人の許可を得ずに使用することは、プライバシー権の侵害にあたる可能性があります。
プライバシー権の侵害をしないために、動画制作時には、出演者や映り込んだ人々からの許諾を必ず得ることが重要です。


③財産権(パブリシティ権)
 財産権(パブリシティ権)は、肖像権の一部として、特に著名人の名前や顔が持つ経済的価値に関連する権利です。
 財産権は、個人の肖像や氏名が広告や商品に使用された際に生じる利益を、無断で他人に利用されないように保護するための権利です。

 

 例えば、芸能人の写真や名前を無断で使用して商品を宣伝することは、財産権の侵害にあたります。
動画制作においても、著名人を登場させる場合には、必ず本人または所属事務所の許諾を得る必要があります。
財産権を守ることで、法的なトラブルを避けられます。

●著作権と肖像権の違いとは
 動画制作において、著作権と肖像権は混同されやすいですが、異なる権利です。

 

・著作権は、動画や音楽、画像などのクリエイティブな作品に対して発生する権利で、作品の制作や使用に関する権利を保護します。


・肖像権は、人物の顔や姿などのプライバシーを守る権利です。
著作権は無形の創作物に適用され、肖像権は個人の容姿や私生活の保護を目的としています。
例えば、動画に出演した人物の顔を無断で公開することは肖像権の侵害となり、事前に許可を得る必要があります

●動画制作で使用する音楽は?
 動画制作において音楽は、視聴者の感情を引き出し、映像の魅力を高める重要な要素です。

 

しかし、音楽の使用には著作権の問題が伴います。
知らずに楽曲を無断で使用してしまうと、法的なトラブルにつながる可能性があります。
そのため、事前に著作権の有無を確認し、必要な手続きを踏むことが不可欠です。

 

本項では、動画制作時に音楽を使用する際の注意点について詳しく解説します。


①JASRACが著作権を持っている場合
 JASRAC←JASRACに移動)は一般社団法人日本音楽著作権協会の略称で、日本の音楽著作権を管理する主要な団体です。
動画内で使用したい音源がJASRACに登録されている場合、その音源を使用するには正式な手続きが必要です。

 

 まず、JASRACのウェブサイトから該当する楽曲が登録されているかを確認します。


使用許諾を得るためには、

・配信用の動画コンテンツを制作する場合は「ビデオグラム録音(←JASRACに移動)」の手続き

・制作した動画コンテンツを配信する場合は「インタラクティブ配信(←JASRACに移動)」の手続き

が必要です。


 ビデオグラム録音とインタラクティブ配信の手続きを行うことにより、楽曲を動画に使用し、インターネット上で配信することが合法となります。


 手続きには、楽曲の使用目的や範囲に応じた使用料が発生するため、事前に詳細を確認し、必要な手続きを適切に進めることが重要です。


②JASRACが著作権を持っていない場合
動画に使用したい音源がJASRACに登録されていない場合でも、著作権の問題に気をつける必要があります。
 音源が他の著作権管理団体に登録されている可能性があるため、その確認がまず必要です。
また、楽曲の権利者が個人や企業である場合は、直接連絡を取り、使用許可を得る必要があります。
さらに、著作権フリーの音楽を利用する場合でも、使用範囲や商用利用に制限があることがあるため、利用規約をよく確認しましょう。


許諾を得ずに使用した場合、法的なトラブルに発展する可能性があるため、慎重な対応が求められます。

●動画制作や配信する前に知っておきたい注意点
動画制作や配信を行う際には、いくつかの重要なポイントに注意が必要です。


特に、著作権や肖像権に関する知識は不可欠であり、これらを無視すると法的なトラブルに発展する可能性があります。


 また、使用する音楽や映像素材のライセンスも確認し、適切な許可を得ることが大切です。
本項では、動画制作や配信を行う前に知っておくべき基本的な注意点について詳しく解説します。

①できるだけ著作物が映り込まないよう注意する
 動画制作や配信時に、他人の著作物が無意識に映り込む「映り込み」に注意することが非常に重要です。
例えば、撮影現場にあるポスター、絵画、ロゴ、看板などが映り込むと、それらの著作権を侵害する可能性があります。
 他人の著作物が映り込んだ場合、事前に著作権者から許諾を得ていないと、動画を公開できなくなる場合や、後に法的トラブルに発展するリスクがあります。
 具体的な例としては、街頭広告や美術館内の作品など、偶然でも著作物が映り込む場面です。
著作権侵害を防ぐために、撮影時には背景に著作物が含まれないように工夫するか、必要に応じて使用許諾を取得することが求められます。


②使用する楽曲の権利関係を確認しておく
 動画配信で使用する楽曲やBGMの取り扱いには細心の注意が必要です。
まず、楽曲やBGMには著作権が存在し、無断で使用すると著作権侵害に該当する可能性があります。
JASRACなどの著作権管理団体に登録された楽曲を使用する場合は、必ず使用許諾を得る手続きが必要です。
 また、著作権フリーやロイヤリティフリーの音楽を使用する場合でも、商業利用に制限がある場合があるため、利用規約を確認することが重要です。
 さらに、既存の楽曲をそのまま使うのではなく、オリジナル音源を制作して使用することで、著作権の問題を回避する方法もあります。

 

 使用する楽曲の権利関係の確認を怠ると、動画が公開できなくなるだけでなく、法的トラブルにも発展するリスクがあるため、慎重に対応しましょう。

●オンラインで配信するリスクを知る
 動画をオンライン上にアップする際には、いくつかのリスクを事前に把握しておくことが重要です。
まず、著作権や肖像権の侵害リスクがあります。
動画に使用する音楽や映像、登場人物の許可が得られていない場合、配信後に法的なトラブルに発展する可能性があります。
 また、オンライン配信は不特定多数の人に視聴されるため、機密情報やプライバシーが漏洩する危険性も考慮しなければなりません。
 加えて、配信プラットフォームのセキュリティも重要で、適切な対策がされていないと不正アクセスやデータ漏洩のリスクが高まります。
 権利侵害や不正アクセス、情報漏洩などのリスクを回避するためには、権利関係の確認と、セキュリティ対策を徹底することが不可欠です。